札幌高等裁判所 昭和26年(う)178号・昭26年(う)177号 判決
記録を調査するに原審第一回公判調書には、検察官は被告人等の前科調書外四通の証拠書類及び花札外二点の証拠物の取調を請求したところ、弁護人は右証拠書類のうち二通については証拠とすることに同意できないが、前科調書外二通については同意し、証拠物と共にその取調については異議がないと述べたので、検察官は右不同意の書面の取調の請求を撤回し、同意を得た書面を朗読し証拠物を展示した上裁判所へ提出した趣旨の記載がある。そしてこれによれば裁判所が右の同意を得た書面について証拠調の決定の宣告をした旨は明記されていないのである。
証拠の取調をするには証拠調の決定をしなければならないことは刑事訴訟規則第百九十条第一項の規定するところであつて、この決定なくして証拠の取調をすることは勿論違法であるが、本件の場合に弁護人所論のように証拠調の決定がなかつたものと見るべきか否かは一件記録の全体を通じて常識的にこれを解すべきことであつて、公判調書に証拠調の決定を宣告した旨の記載がないからといつて、直ちにその決定がなかつたものと即断すべきではない。
ところで右公判調書の記載によれば証拠調はその取調請求者たる検察官の朗読及び展示によつて実施していること明らかであり、又それ以前に、証拠調の請求に対して訴訟関係人の陳述を聴いていること前述の通りであるところを見ると、その間に裁判官は検察官の証拠申請に対して証拠調の決定をし、且つこれを宣告したものと見るのが相当であつて、それなればこそ右証拠調の直後裁判官は右証拠物を領置する手続を採つているのであると見るべきである。
従つて公判調書においては右証拠調の決定の宣告のあつたことの記載を脱漏したものであるが、所論は公判調書の記載を見ると検察官は証人の取調を請求し直ちに同意を得た書類を朗読し証拠物を展示したとなつているので、その間裁判官が発言する寸毫の余裕もないというけれども、公判調書は速記とは違つて、裁判官又は訴訟関係人の発言の内容が逐一記載せられることを要するものでないから、調書に検察官が「・・を証人として取調を請求する立証要旨は前同様であると述べ同意を得たその他の書類を朗読し、証拠物を展示した上裁判所へ提出した」と記載せられているからとて、その間に裁判所が右書類及び証拠物について証拠調の決定を宣告する余裕はなかつたと見るべきではない。
尤も公判調書には裁判の宣告をしたことはこれを記載しなければならないことになつている(刑事訴訟規則第四十四条第十七号)から、この記載を脱漏することは公判調書の記載要件に関する右規則の条文に違反することとなるので、訴訟手続違反ではあるが、それは裁判官の証拠調決定がなかつたことにはならないし、又その違反は判決に影響を及ぼすものでもない。
従つて本件の証拠調はその手続に何等違背はないのであるから、これを証拠として事実を認定した原判決は適法であり所論のような違法はないといわなければならない。